大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和61年(あ)916号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人梅沢錦治の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は、憲法三一条、三九条違反をいう点を含め、その実質はすべて単なる法令違反の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、所論にかんがみ職権により判断すると、本件昭和六〇年一一月八日付起訴状記載の訴因は、「被告人は、『よっちゃん』こと小林某と共謀の上、法定の除外事由がないのに、昭和六〇年一〇月二六日午後五時三〇分ころ、栃木県芳賀郡二宮町大字久下田五四三番地の被告人方において、右小林をして自己の左腕部に覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン約〇・〇四グラムを含有する水溶液約〇・二五ミリリットルを注射させ、もって、覚せい剤を使用した」というものであり、また、検察官が第一審裁判所において変更を請求した訴因は、「被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和六〇年一〇月二六日午後六時三〇分ころ、茨城県下館市大字折本七五二番地の一所在スナック『珊瑚』店舗内において、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン約〇・〇四グラムを含有する水溶液〇・二五ミリリットルを自己の左腕部に注射し、もって、覚せい剤を使用した」というものである。そして、記録によれば、検察官は、昭和六〇年一〇月二八日に任意提出された被告人の尿中から覚せい剤が検出されたことと捜査段階での被告人の供述に基づき、前記起訴状記載の訴因のとおりに覚せい剤の使用日時、場所、方法等を特定して本件公訴を提起したが、その後被告人がその使用時間、場所、方法に関する供述を変更し、これが信用できると考えたことから、新供述にそって訴因の変更を請求するに至ったというのである。そうすると、両訴因は、その間に覚せい剤の使用時間、場所、方法において多少の差異があるものの、いずれも被告人の尿中から検出された同一覚せい剤の使用行為に関するものであって、事実上の共通性があり、両立しない関係にあると認められるから、基本的事実関係において同一であるということができる。したがって、右両訴因間に公訴事実の同一性を認めた原判断は正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 坂上寿夫 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 貞家克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例